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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)89号 判決 1977年10月31日

原告

ジュジュ化粧品株式会社

右代表者

中野博司

右訴訟代理人弁理士

新垣盛克

被告

株式会社鈴木日本堂

右代表者

鈴木宗一

右訴訟代理人弁理士

安藤政一

主文

特許庁が昭和五二年三月一一日同庁昭和四九年審判第四三四一号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の申立<省略>

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として次のとおり述べた。

(特許庁における手続)

一、原告は、別紙第一記載のとおり、「シユシユ」(「ユ」の文字はいずれも「シ」の文字に比しやや小さい。)の片仮名文字を左横書きにしてなり、第一類「化学品、薬剤、医療補助品」を指定商品とする登録第九八五三二八号商標(昭和四一年四月二二日出願、昭和四七年一〇月一八日登録。以下「本件商標」という。)につき、その商標権者たる被告を被請求人として、昭和四九年五月三一日登録無効審判の請求(特許庁同年審判第四三四一号事件)をしたところ、特許庁は、昭和五二年三月一一日右請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は同年四月一三日原告に送達された。

(審決の理由)

二、審決の理由の要点は次のとおりである。

1  請求人(本件原告)の商標法第四条第一項一一号違反の主張について

登録第四七七八〇四号商標(昭和二七年六月一八日出願、昭和三一年三月一〇日登録。以下、「引用商標」という。)は、別紙第二記載のとおり、「ジユジユ」(「ユ」の文字はいずれも「ジ」の文字に比しやや小さい。)の片仮名文字を縦書きしてなり、旧第一類「化学品、薬剤及び医療補助品」を指定商品とする。

まず、両商標の構成については、本件商標は横書きであるのに対し、引用商標は縦書きであり、また、本件商標は両方の「シ」に濁点がないのに対し、引用商標は両方の「シ」に濁点が付されており、比較的画数の少い片仮名文字において濁点の有無は重要な相違点であるから、これらの点からみて、両名は外観上明白な差異を有する。

次に、称呼上よりみるに、本件商標は「シユシユ」の文字からなるところ、「ユ」の文字が「シ」の文字に比しいずれも小さく表わされている関係上、「シ」の音に「ユ」の音を読み込んで「シ」の子音(sh)と「ユ」の母音(u)とが結合された音節として一音のように称呼され、これが重複されるものである。一方、引用商標は前記と同様に「ジ」の子音(j)と「ユ」の母音(u)が結合された音節として一音のように称呼され、これが重複されて発音されるものである。この場合、前者の「シ」音の子音(sh)が上歯の彼方に舌を近づけて発する比較的弱く印象される摩擦音であるのに対し、後者の「ジ」の子音(j)は上歯の後方に舌をつけて発する比較的強く響く破擦音であるから、これを重複して一連に称呼するときは、両者の差異が増幅されて一層明瞭となり、全体として前者は軽い語感として、後者は重い語感として聴取されるから、両者がいずれも二音構成のように称呼される比較的短い称呼であることと相俟つて、称呼上においても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。

さらに、観念についてみるに、両者はいずれも特定の語義を有しない造語と認められるから、観念については比較すべくもない非類似の商標である。

してみれば、本件商標および引用商標は、外観、称呼、観念のいずれよりみるも非類似の商標といえるから、両者の指定商品が相牴触するものであるとしても、商標法第四条第一項第一一号に違反して登録されたものとすることはできない。

2  請求人の商標法第四条第一項第一〇号および第一五号違反の主張について

本件商標は、請求人主張の右両号に違反して登録されたものではない(理由省略)。

3  したがつて、本件商標は、これを無効とすることができない。<以下省略>

理由

一請求原因中、被告が商標権を有する本件商標について、その構成、指定商品及び原告の登録無効審判の請求から審決の成立にいたるまでの手続並びに審決理由に関する事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、原告主張の取消事由について検討する。

<証拠>によると、引用商標は、別紙第二記載のとおり「ジユジユ」(「ユ」の文字はいずれも「ジ」の文字に比しやや小さい。)の片仮名文字を縦書きしてなり、旧第一類「化学品、薬剤及び医療補助品」を指定商品とするものであることが認められる。

まず、称呼についてみるに、本件商標も引用商標も、ともに、片仮名文字四字からなつているが、第二字と第四字の「ユ」がその上の文字より小さく表示されているため、本件商標においては「シ」と「ユ」の音が結合されて音標文字〔su〕の音節となるのに対し、引用商標においては「ジ」と「ユ」の音が結合されて音標文字〔ju〕または〔dju〕の音節になり、さらに、両者とも右各音節が重複されて、いわゆる畳音による二音節の称呼を生じている。

ところで、「シ」と「ジ」が同じ片仮名文字の清音と濁音という極めて密接な関係にあることはいうまでもなく、その頭子音である〔s〕と〔j〕または〔dj〕は、いずれも前舌面と硬口蓋の間で調音される硬口蓋音であるうえ、それぞれこれに同じ母音「ユ」〔u〕が結合されて一音節を構成するものであるから、結局、「シユ」〔su〕と「ジユ」〔ju〕または〔dju〕とは相互に近似した音節であるといつて差支えない。

しかも、その近似した「シュ」と「ジュ」が語調を同じくする畳音の形態でそれぞれ繰返されるのであるから、「シユシユ」と「ジユジユ」とは、全体として呼称するとき、一層近似性を増し、取引上需要者間において極めて紛らわしいものがあるというべきである。

したがつて、本件商標と引用商標は、称呼上類似する商標であるといわざるをえない、

審決は、「シ」の子音が「比較的弱く印象される摩擦音」であるのに対し、「ジ」の子音が「比較的強く響く破擦音」であるとし、これをもつて、両商標を称呼上非類似とする根拠としている。しかし、音声学上両子音に審決指摘のような差異があるとしても(但し、「ジ」の子音を〔j〕とみるときは、それは摩擦音である。)、そのことから両子音、ひいてはそれに母音を結合した音節「シユ」と「ジユ」間の近似性が否定されるものではない。まして、商標から生ずる称呼の類否は、称呼全体、すなわち統合された音節全体としての称呼について判断すべきものであるから、称呼を構成する対応子音について微視的に観察して差異があるからといつて、称呼全体からする前記判断を左右することはできない。

そうすると、両商標を称呼上非類似としたことに基づく審判の判断は、その余の点にわたつて検討するまでもなく、誤りであるから、審決は違法であつて取消を免れない。

三よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 石井敬二郎 橋本攻)

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